以下は、私の好きな建築家・堀部安嗣氏の屋根についての記述です。
『建築における公理やルールのひとつに、その場所の気候風土に合わせる、ということが挙げられます。例えば、雨が多く湿度の高い日本で、木造住宅は屋根に勾配をつけて、外壁より軒を出す。悪いことはひとつもありません。逆に陸屋根にして、軒の出をなくすと、高い確率で欠陥や無理が生じます。町並みも崩れます。勾配のある、均整のとれた合理的な屋根を架けなくてもよいとなれば、建築の平面はとめどなく自由で奔放になる。スタディーの段階において、その自由な平面は一見、新しい建築の表現、可能性のあるような気がして魅力を感じるときもあるけれど、どうもそこから先には進んでいけない、進むべきではない、というリミッターがかかってしまう。そして気候に対して、風景に対して、あるいは経済に対しても合理的な屋根を架けようという意志もってさらに平面を練り直してゆくと、不思議と人の動きや営み、あるいは人の希望といった本質的な問題の解決につながって平面が昇華してゆくことが多いのだ。』(「住宅建築」2009.12)